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礼門左妃の日常 〜vol.4 宴の終りと隠し味〜

2010/08/04 20:58
明けて翌日。

8月1日午前11時、黒桜高校部室棟。

「だから言ったんだ。闇鍋が原因であるはずがないと」
どこか得意げに礼門左妃は言い放った。
「何かの偶然だ」
「いや、違うと思う・・・」
公坊時光は納得がいかないようにそう答える。

昨日、闇鍋に参加した生徒たちは皆検査を受けた。
けれど意外なことに、検査の結果は食あたりではなかったのである。
食中毒を疑われるほどの症状を引き起こしたというのに、だ。

結果、弓道部員はお咎めを受けなかった。

普通の鍋をして、何の原因もなく腹を壊した生徒たちを、一体誰がしかれるだろう。

しかし、間違いなく惨劇の原因はあの『闇鍋』である。

口にこそしないが、皆一様にそう思っている。

症状の強弱こそあれ、闇鍋を食した生徒は、そのほとんどがすぐ腹を壊したのだ。

「お前ほんとに何ともなかったのか!?俺だって明け方近くまで便所に籠ったんだぞ」

参加者のほとんどが撃沈。そのうち四人は病院送り。
全くの無症状など奇跡に近い。
奇跡を通り越して異常であった。
その奇跡を起こした者は二人。
礼門左妃と・・、
「おはよう。まだ人が少ないねえ」
白賀千暁(はくがちさと)。昨日帰らなかった長い黒髪の青年は何事もなかったかのように、笑顔で近づいてきた。
「みんな食あたりじゃなかったんだって?」
「ああ」
時光が言った。
「とりあえずな」
そう、奇妙なことに、あれだけの症状を訴えた部員たちが、翌朝誰一人として異常を訴えなかったのである。
病院に入院した生徒もまた同じだった。

「昨日はすまなかったな」
時光は生真面目に礼を言った。
「気にしないで。当然のことをしただけだよ」
千暁は朝帰ってきた。
早急に部員たちから何を入れたのかを聞き出し、入手先まで割り出した。気温室温に至るまでまとめあげた資料を提出したらしい。それを踏まえて医師及び教師たちが協議したが、異常の起こりようのない状況に閉口するしかなかったそうだ。

それ故の、不問。

ただし念のため、学内での『闇鍋』は禁止された。

そして、再び夏休みの活動ははじまった。



が。



礼門左妃はあきらめていなかった。

学校で禁止されたからといって、家で作っていけないとは言われていない。
左妃は自宅台所に立ち、闇鍋の再現を行っていた。

「おかしい・・・」

再現回数五度。
鍋からは一度として妖しい香りは漂わない。

「足りない」

礼門左妃は鍋の前に佇み、物思いに耽るのだった。


               †


「あー良い匂い」
礼門左妃の家の外で、千暁は漂う闇鍋もどきの香りを嗅いだ。
「まさかあんなことになるとは思わなかったなあ」
左妃がいくら時間を費やそうと、同じ代物は二度とできないだろう。
あの鍋には隠し味が存在したからだ。
他人には決して真似の出来ない千暁だけの芸当。

そう、闇鍋を食中毒並みの破壊力を持った鍋にしたのはこの男。

料理に触れるだけでまずくなるというのは、彼の属する千条院家では周知の事実である。

闇鍋は、ただ究極に不味くなっただけだっだ。

ちょっとした出来心がまずかった。
千暁は鍋の具材を自分で作って用意したのだ。
色々な具材を入れた卵焼き。

もちろん自分は鍋に口をつけてはいない。

さすがに自分のせいで部長が叱られるのは後味が悪い。

故に千暁はあれだけの労力を使って説得工作を行ったのである。


「左妃ちゃんがお腹を壊さなかったのは残念だったけど」

自分の料理で左妃が撃沈することはなさそうだった。

千暁は夕焼け空に向かって呟く。



「料理は止めよっと」




   完
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礼門左妃の日常 〜vol.3 幕間劇〜

2010/02/11 17:40
礼門は怒る。


その場にいた者全てがそう思っていた。


絶対に、怒ってくれるはず・・・と。


それなのに。


               †


「ぼ、僕は大丈夫ですッ。自分でできるんで!!」

先頃保健室から生還した副部長、松木竹流が悲痛な声を上げた。懸命に立ち上がろうとしているが、大丈夫でないのは一目瞭然である。

何者かから逃れるように、手を前にもがく様子が痛々しい。

夕食にありついたばかりの公坊時光であったが、手伝おうと箸を置いた。

と。

「おい、素直に言うことを聞いておけ」

礼門左妃が諭すように松木に言った。

そう。

今日に限って礼門左妃は全然怒ってはくれなかった。
『彼』の行動に対し、文句すら言ってくれない。

「そうよ〜。左妃ちゃんの言う通りん」

行きましょ。平均的男子高校生体型の松木がふわりと宙に浮く。

「竹流ちゃん」

キャアアアアア。

副部長、松木は運ばれていった。

「お願いね〜」

『彼』を連れてきた三国一が頼もしそうにその背を見送る。


「・・・・・」

時光は再び箸を手に取った。


腹痛と吐き気に苦しむ男子部員が十九名。
無事に残ったのは三名。
その内一名はまだ戻らない。

人は多いにこしたこことはない。

だから一も助っ人を呼んでくれたのだ。

「美味い」

優しい味付けの煮物を口に運び、時光は思わず呟いた。

確かに、『彼』は助っ人ととして最強だった。

力はある。
料理の腕は最高。
病人の看病は誠心誠意、とても細やか。

でも。



「たーだいま〜」

『彼』が腕に副部長をお姫様抱っこして戻ってくる。

そう『彼』こそが今回一の呼んだ助っ人であった。
赤い髪に精悍な顔立ちの青年。

助三郎。

松木を布団に寝かしつけ、休む間もなく皆の様子を見て回る。

「お腹の具合はどお?」

おそらく身長180センチ以上。

「全然大丈夫です」

ウッソぉ。助三郎はくねくねと身をよじった。

「だってアナタ、顔色わーるーいぃ〜」

モデルのようなすらりとした立ち姿。

「お腹さすってアゲルわ〜」

しなやかな筋肉の線。

「じゃ、一君でお願いします」

「なんでェ?アタシでいいじゃな〜い」

左腕の二の腕に、赤い『礼』の文字(もんじ)。

「ほらお薬飲むゥ」

漢と呼ぶにふさわしいその外見。

「それともアタシが飲ませてあげようかしらァ」

「じ、自分で飲めます!!」

カマ。

腹痛吐き気に耐え、なおかつ『彼』の恐怖に怯えねばならないとは、一体誰が考えたであろう。
左妃の怒りを期待してしまうのはいたしかたないというものである。

それなのに。

「まったく困った奴らだ」

彼には事の重大さが全く理解できないようだ。

(分からねえ・・・)

時光は夕食を終えて、湯のみに手を伸ばす。

助三郎を手伝うと言い出した時、一悶着あると期待した時光及び部員たちは見事に裏切られた。

その上、口にした後分かったことだが、無事だった人間の夕飯と具合の悪い者用の食事の半分を作ったのは、あろうことかこの左妃であったのだ。

材料さえ選べば、美味しい物を作れるといったところなのだろうか。

味覚と胃腸だけでなく、精神も常人を超越しているようだ。

「助三郎、そろそろ食事にしたらどうだ?」

左妃が呼びかける。

「分かったわ〜、今行く」

成される普通の会話。

「さてと、ご飯にしましょ」

鼻歌まじりに助三郎が卓についた。
突然、その視線が今まで傍観していた時光自身に向けられる。

「?」

「アナタ大丈夫?顔が白いわ」

「え?俺は別にへい・・・き」

言いかけた時光の言葉が止まった。

「ゥ・・・ッソ」

激しい腹痛が襲う。

なんで今!?

助けを求めるように視線を彷徨わせれば、先ほど連れて行かれた副部長と目が合った。
同情したような、哀れむような、それでいて楽しげな瞳。

「や、俺は大丈夫です。自分でできるんで」

立ち上がろうとしたが、あまりの痛みに動くこともままならない。

「おい、素直に言うことを聞いておけ」

左妃が松木を諭したのと全く同じことを言った。

呼応するように助三郎の手が伸びる。

「心配しないで。アタシが看病してア・ゲ・ル」

かなりガタイの良い時光の身体が、ふわりと宙に浮いた。

「さ、行きましょ」

助三郎が言った。

「時光ちゃん」


こうして、時光もまた、運ばれていったのである。



   完

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words.
助三郎(すけさぶろう)
松木竹流(まつきたける)
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礼門左妃の日常 〜vol.2 公坊の苦悩〜

2010/02/09 16:40
7月31日、午後12時30分。

黒桜高校部室棟弓道部部室では、後片付けが行われている。

「こんにちは〜」

掃除その他云々の事情により開け放たれた弓道部の入り口を、柔和な表情の少年がのぞきこんだ。

三国一。
夏休みの保健当番で出席していた、保健委員会所属の二年生である。病人が続出した弓道部の手伝いに急遽駆り出されたのだ。

「お薬持ってきたよ」
人気のない部屋の奥から大柄な青年がせわしなく出てくる。
「わりぃな三国」
部屋を掃除していた時光であった。
「大丈夫だよ、気にしないで」
はい。一はお整腸剤の入った瓶を手渡す。
「サンキュー、他の奴らが帰ってきたら飲ましとくわ」
「うん」
何かあったらまた呼んで。と言い残し、一は保健室へと戻っていった。



闇鍋参加者、総勢二十六名。

六名、保健室行き(内四名既に病院送致)。
十二名、部室棟手洗いにいったまま、未だ戻らず。
五名、手洗いと部室の往復。

必然的に生き残った三名で片付けが行われている。

分担は、

公方時光が皆の看病と部屋の掃除。
白賀千暁は教員への対応。
礼門左妃は洗い物。

といった具合である。

いつもなら振り分けられた時点で文句の一つも言いそうな左妃であったが、今日は良い物を食べたせいもあり言われた通り黙々と作業をこなしてくれている。

爽やかな緑を見て、時光はため息を吐いた。

病院へ行った者たちは無事だろうか。
後で便所も見回らなければ。

片付いたらおそらくはお説教だろう。
それは部長として致し方ないが、始末書やら何やら忙しくなりそうだった。

もっと厳しいことだって考えられる。

(あー・・・停学とかも考えられるな、俺)

頼りの顧問の先生は病院へ付き添いのため、しばらくは帰らない。
肩の辺りが重かった。

(何入れたんだろ)

気持ちを紛らわすために闇鍋の材料を考えてみたが、よけいに暗くなったので、止めた。

(そういや白賀は大丈夫かな)

僕が行くから後お願いと職員室に行ったまま、まだ帰ってこない。

(俺が行くべきだったのに・・・)

校舎の方を見やり、剛胆な彼には珍しく心もとない表情を浮かべた。

「時光さーん」

と、呼び声が聞こえた。

一が走ってくる。

「どーしたー?」
動揺を気取られないように隠し、返事をした。
「弓道部のみんなだけど、今日学校に泊まれって〜」
「マジでか」
「合宿用の部室に!」
ボクも泊まるんだ〜。そう言って一はうれしそうに笑った。
「助っ人も頼んだから、用意はまかせて」
「・・・三国、すまねえ」

時光は息を吐き、腹を据えた。

考えていても仕方がない。
やるしかないのだ。

今はやれることをやろう。

「頼む。俺は部員の面倒を看る」
吹っ切れたのと同時に、左妃が綺麗に洗いあげた鍋を手に帰ってきた。
いつもと全く変わることなく高飛車に、そして唐突に、左妃は訊(き)いた。

「おい。部活は始めないのか」

状況を分かっているのかいないのか、その様子が可笑しくて、時光は少し呆れたように答えた。

「無理だろ」

今日は泊まりだ。

弓道部の初合宿にしては妙だが、これはこれで悪くない。

(徹夜だな、きっと)

時光は微笑んだ。


               †


確かにその夜、公坊時光は徹夜となった。
皆に薬を飲ませ、さて一息といったところで、腹痛が起こったためである。


   完

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words.
三国一(みつくにはじめ)
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礼門左妃の日常 〜vol.1 宴〜

2010/02/06 18:42
7月31日、黒桜高校。

晴れわたる空。
白くて豪快な雲。
目が眩むほどに照りつける太陽。
そして、うだるような暑さ。

ニッポンの夏。

今日も夏期休暇中の部活動が校内の至る所で盛んに行われている。
そのにぎやかな喧噪の中を、さしたる感慨もなく青年は通り抜けた。

閑散とした部室棟の一番奥が弓道部。

礼門左妃の所属する部である。

「おう、礼門。来たのか」

部室の扉の前で、5、6本のペットボトルを片腕に抱えたがたいの良い青年が手をあげた。
公坊時光。
弓道部の部長である。
「昨日お前ん家に電話したら、まだ戻ってないみたいだったからよ」
無事帰国したんだな。爽やかに時光は話しかけた。
「今日着いた」
そんな彼に左妃は特に笑顔を返すでもなく応じる。
「今日ってお前・・・、こっち着いて何時間だよ」
時光は呆れた。
「無理しなくてもいいんだぞ」
「伝言を残したのはお前だろう。来て悪いのなら連絡をするな」
部長のいたわりの言葉にもいたって高飛車に左妃は答え、部室のドアを開けた。
「む?」

いつもは明るい部屋の中が暗い。

クーラーは効いてはいるようだが、何やら蒸し暑かった。
外の明かりを背に、目を凝らしてよく見れば、部屋の真ん中には小さなコンロと・・・、
「鍋」
さらによく見れば、見慣れた顔の弓道部員がいく人もいた。左妃の姿を見るなり歓迎とも文句ともとれる言葉を投げかける。
「おう。鍋だ」
闇鍋。続いて入ってきた時光はどこか楽しげに左妃の聞き慣れない名前を口にした。
「ヤミ鍋?」
聞けば、ようするに部活動前の腹ごしらえらしい。
「今日の部活はこれから始めるんだ」
「くだらん・・・」
どうせロクな物ではあるまいと、左妃は踵を返した。
「帰る」
と、去りかけたその背中に、部屋の中のひと際暗い場所から声がかかる。

「へえ、左妃ちゃん怖いんだ」

左妃の足がぴたり止まった。
「・・・なんだと?」

「闇鍋怖い」

声は挑発するように囁いた。

左妃ちゃん。

左妃を『ちゃん』付けで呼ぶ者は今のところ黒桜高校でただ一人。
無論、左妃本人は声の主が誰であるか、既に分かっている。
「怖い?見当違いも甚だしいな白賀」
白賀千暁。
礼門左妃のクラスメイトであり、天敵。
「じゃー、お一人様追加で〜」
殺気立つ左妃に構うことなく、千暁はのんびりと注文でもするように言った。
「望むところだ」
こめかみに明らかな四つ角をたてながら、左妃は部室の中央へ進み、鍋の真ん前へどっかりと腰を下ろす。
戸口で一連の様子を見ていた時光は、思うツボじゃないか、と苦笑した。


結局、これから行われる事が、『闇鍋』という名の鍋である事以外は何も分からないまま、左妃は参加することとなった。


               †


部室のドアが閉じられ、部屋が闇に包まれた。
ぐつぐつとくぐもるような音を立てて煮立つ鍋。
涼しいのか暑いのか分からない、温(ぬる)い空気。

否が応でもかき立てられる不安感。

闇鍋の開始。

「具入れろゥ」
時光の合図で、飛び入り参加した左妃以外の生徒たちは用意していた『食材』をごぞごぞ、ぽちゃぽちゃと放り込んでいく。

やがて音は静まり、鍋のフタがゆっくりと閉じられた。



待つこと10分。



妖しげなにおいが部屋中に漂った頃、部長時光の合図によってフタは再び取り除かれた。
「手をつけた具は絶対食べる。いいな」
コンロの炎の微かな光が鍋の輪郭をかろうじて浮かび上がらせている。
そのすぐ側で、時光が手を合わせて先導した。

「いただきます」

「いただきます」

部員もそれに合わせて斉唱し、続いて鍋の具を箸でつついた。



間。



ドタッ、バタタタタッ!


激しい物音がして、いく人かが部室から外へ飛び出して行った。
「なんじゃこりゃ〜」
「うげぇ・・・」

罵声に怒声に呻き声。

ドアと窓が一斉に開けられる。

悪夢から覚めたように、辺りは鮮やかな現実へと戻った。

その現実も、鮮やかなだけで悪夢のような風景だったのだが・・・。

部屋には留まれたものの、悶絶は避けられなかった部員たち。
倒れた机や椅子。
散乱する箸その他。

一体何を入れたらこうなるのか、部屋中央に鎮座する禍々しくグロテスクな色の液体に満ち満ちた鍋。

その前で、ただ一人静謐さを保ち目を閉じる左妃。

「礼門?」
いち早く異変に気がついた時光が、少しすまなそうに呼びかける。
「お前にゃ無理だっ・・・」
彼が言い終わらぬうち、左妃は目を開けた。


「美味い」


水を打ったがごとく静まり返る部屋。


「お前ら・・・なぜこんなものが作れた!?」


続いて左妃は興奮気味に尋ねたが、誰一人応えなかった。


               †


その日、弓道部の部活動が始まることはなかった。
鍋をつついた部員のほとんどが、腹を壊したためである。

                                                    完

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
words.
黒桜高校(こくおうこうこう)
礼門左妃(らいもんさき)
公坊時光(くぼうときみつ)
白賀千暁(はくがちさと)
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黒羽蓮の復讐

2010/02/01 12:57
午後7時、黒羽家の食卓。

執事伊勢が優雅な手つきでタイミングよく料理ののった皿を変えて回る。
一方で食堂に介した蓮、蓉、今日から屋敷の住人となったバルの3人は黙々と夕食を摂っていた。

料理を口に運びながら、蓮は見るともなしに弟を見やる。


学校から帰った蓉は、すぐさま蓮のいる羽黒庵へと踏み込んできた。
バル・イグネウスをなぜこの家に呼んだのか問いただすためである。

バルはかつて蓮の知り合いのつてを頼って、ギリシャで暮らすことになった経緯があった。

「いつまでいるんだよ!」

ゆえに滞在は短い期間だけだろうと高をくくっていたのだろう、そう聞いた。

「ずっとだよ」

バルがそこを辞め、黒羽家に居候すると聞いた時の蓉の表情といったらなかった。

蓮は顔の筋肉一つ動かさずに心の中でほくそ笑む。


(まだ仕上げが残っているよ・・・蓉)


そう、これで終わりではない。

蓮は見た目通りに陰険である。
そして面白いことをこよなく愛する性分である。

もう一つ、蓉を驚かせる手はずを整えていた。

蓮は蓉が羽黒庵に来ている隙に、伊勢にバルを食堂へと連れ出してもらったのである。
ゆえに蓉は、自分の隣にバルが住まうことをまだ知らない。

蓉はきっと強がって余裕を見せるために食後のお茶まで絶対につきあうであろう。
それが命取りであることも知らずに・・・
そうなればこの仕掛けは成功である。

案の定、蓉は蓮やバルが席を立つまで食堂にいた。

食事が終わり、部屋へ帰る道すがらもこうして一緒に歩いている。
先頭に立って廊下を行く蓮は、ほころぶ口元に手をやった。

やがてエントランスを囲むように弧を描く階段についた。
屋敷はそこを中心にして左右に分かれている。
兄弟の部屋は正反対に位置しているので、階段を上ったところが分かれ道だ。

「じゃあ二人とも、おやすみ」

立ち止まり、蓮は素知らぬ振りで笑いかけた。
ふくれっつらをしたままの蓉は、返事もせずに自分の部屋がある方へ歩いて行く。
「おやすみなさい」
バルは軽く会釈を返し、少し遅れて蓉に続いた。

蓮は悠然と二人に背を向けた。
その端正な貌に、勝ち誇った笑みを浮かべて。


               †


歩くこと十数メートル。
空き部屋などいくつもあるはずなのに、バルの気配が一向に消えない。
「なんでついてくんだよ」
後ろを振り返り、いらだったように蓉は尋ねた。
「オレの部屋も同じ方向だからだ」
上目遣いに見上げながら、バルは答える。


蓉は嫌な予感に襲われた。


数秒後、辿り着いた先で、それはいとも簡単に現実となる。


バルは蓉のすぐ隣の部屋のドアノブを回した。


(やられた!!)


叫びそうになるのを蓉はかろうじてこらえる。
取り乱せばいっそう蓮が喜ぶだけだ。
叫べば負けだ。

(いや、取り乱さなかったところで俺が動揺していることくらいお見通しか)

きっと嗤っているに違いない。

(くそッ!!)

ならばせめて、叫ぶものか。
蓉は呼吸を整えた。

「ヨウ」

バルの声。

「・・・ッ!?」

ドアを開けただけで、少年はまだ部屋に入ってはいなかった。
蓉が動揺している様子を見物していたらしい。

「おやすみ」

しまったと思った時にはもう遅かった。
嘲るような微笑みを残し、バルは部屋へと姿を消した。


完敗だった。


蓉は拳を握りしめ、叫んだ。


「やりやがったなァ!!!蓮〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」





こうして陰険な蓮の復讐は第一部の幕を閉じたのである。

end.
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蓮の策略〜act.6〜

2009/09/01 17:42
羽黒庵。
西洋の物とも東洋の物ともつかぬ物を扱う骨董屋。

黒羽蓮の店。

あまりにもぞんざいに置かれた物たちはとても売り物には思えない。

埃で薄化粧された『物』。

気まぐれに店主が埃を払うこともある。
しかし埃取りは物の上を滑るだけなので、いつでも埃は物が置かれた古めかしい机の上に残った。

埃で埋もれた物。
物で埋もれた店。

けれどぽつりぽつりと物があったであろう形跡が、机の上や棚の上に残されているところを見ると、商品はどうやら売れているようだった。

蓮は店のスペースの一角に置かれた棚の前に立っている。
棚に嵌め込まれた曇った硝子の向こうには何もない。

そこにあった『箱』は、売れてしまったからだ。

「蓉のお陰かな」

蓮は呟いた。

箱の中身は血のように赤い宝石のついた、唐草模様が透かし彫りにされた銀の腕輪。

相当に手の込んだアンティークの逸品である。
同時に蓉が3年前にモノを封じた危険物でもある。

元の持ち主はバル・イグネウス。

腕輪が売れたのは1月ほど前。
この時点で蓮はバルのことを思い出さなかった。

(あの時すぐ誰かにこの退治話を持っていかなかったのは正解だったな)

幸運にもその日のうちに、蓉が蓮を刺激するような台詞を吐いたため、蓉があの腕輪に関わっていたことを思い出すことができたのだから。

蓮は一人思考を続けながら、主のスペースへと階段を上って戻って行く。

そこからバル・イグネウスに辿り着くのは実に容易だった。


この退治に彼ほどふさわしい者はいない。


そう考えた蓮は手紙でバルに条件を出した。


かつて君の所有していた腕輪に封じたモノを退治すること。

この条件を呑むならば『向こう』に話をつけよう。
僕もまた、君の望むように取りはからおう。


と。

バル・イグネウスは即決で受諾の意を示した。

そして今日がはじまりの日。

蓮はのんびりとソファーに腰を下ろす。

同時に聞こえるどたばたと慌ただしい音。
黒羽家と羽黒庵を結ぶ回廊の方だ。

蓉が帰ってきたらしい。

大体どんな顔で入ってくるかは想像がつくが、これからのことを考えると可笑しくて、蓮は口もとに笑みを浮かべた。

「蓮!!」

大きな音を立てて扉が開いた。
口もとを引きつらせ、笑っているような怒っているような表情で蓉は兄の名前を呼んだ。

「お帰り、蓉」

蓮はゆったりと座ったままで弟を迎えた。

予想通りの反応がまた可笑しい。

蓉はこれから夏の間中、バルの退治につきあうことになるだろう。
そして今度こそ自らの力の封印も解かざるを得なくなる。

分かりきった筋書き。

けれど始まりがどう終わりに結びつくのかは分からない。

それは実に面白いこと。

蓮は三日月の様に目を細めて尋ねた。

「夏休みは、どうするんだい?」

完全に仕返しされた蓉が苦虫を潰したような表情を浮かべたのは、言うまでもない。



end.
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蓮の策略〜act.5〜

2009/08/16 17:36
          ―intermission―

『彼』の姿を目にした時、蓉の脳裏を一瞬にして横切るものがあった。

いつもと違う、点在する点。

今朝から、いや、正確に言えば、試験休みの始まるその日から・・・注意さえしていれば、気がつけたかもしれないいくつもの点。


蓉は愕然とした。


「バル・・・」


なぜ、こいつがここにいる?


答えは簡単。


蓮が呼んだ。


気がつかなかった。


違和感さえ感じなかった。


今日、この瞬間を迎えるまで。


蓮を言い負かしたことに浮かれて試験休みを過ごしていた自分を、蓉は後悔した。


今日に合わせたんだ。

夏休みの開始に間に合うように。

蓉は回想する。


今朝、伊勢はいなかった。
聞けば蓮は大切な用事があるから出かけている、そう言った。
そんなこともあるんだろうと、さして疑問にも思わず追求もしなかった。
とどのつまりはバルを迎えに行っていた、そんなところか。

登校して終業式に出席するため体育館へ行けば、担任の姿も見当たらなかった。
副担任曰く、急な用事とのこと。
これも、急に転校してきたバルを迎えていたのだろう。


蓉は嫌な気持ちになった。

そして、蓮に言った事を思い出し、軽率だったと反省した。

嘘でもいい、部活動に入ったふりでもしておけば良かった。


教室にいる生徒たちのざわめきが続いている。


無理もない。
外国からの転校生だ。
小麦色の肌をした、赤い短髪の背の低い少年。


それだけだったなら、自分も皆に加わっていたろうに。

担任が黒板に転校生の名前を書いている。

「はい、ということで、転校生のバル・イグネウス君だ」

「よろしく」

少年はすっと頭を下げた。

蓉のことになど気がついていないかのように、バルは教壇の横にたたずんでいる。

「席は黒羽の隣りがいいな」

ふいに担任が蓉の名前を口にした。
跳ね上がるようにして前を見れば、紅玉のようなバルの瞳がゆっくりと自分に向けられるのが見えた。

「って、センセイ!俺だって転校してきたばっかですよ」

蓉は焦りながら声を上げた。

「なんで名指し!?」

「ん?でもバルはお前の家から通うそうじゃないか。隣りの方が心強いだろ?」

「へ?」

蓉はあっけにとられたように首を傾げた。

待て。

俺の家?

知らないぜ、そんなこと。

そんな素振りは・・・。

伊勢。

伊勢なら蓮の行動を知っている。
事実、協力もしていた訳だから。

「・・・・」

蓮の勝ち誇ったような嗤い顔が目に浮かぶ。


(そこまでやるか!!)


心の中で蓉は叫んだ。

視線を横に走らせれば、なんで疑問に思わなかったのか、さっきまでなかった空いた机と椅子が目に入る。

(そういや、ハジメが運んでたっけか・・・)

三国一が先生に頼まれたと言っていたのを、今思い出した。


もっと追求しておけば、逃げるくらいは出来たのに。


がっくりと肩を落とす蓉に、追い打ちをかけるかのごとく、頭の上でバル・イグネウスの声がした。


「3年ぶりだな、ヨウ」


見上げたバルは、3年前よりも凶悪に、微笑んだ。



To be continude.
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蓮の策略〜act.4〜

2009/08/01 17:16
黒羽蓉は楽しい試験休日ライフを過ごし、黒桜高校一学期最後の日を迎えた。
いつも自分たちの面倒を見てくれている執事の伊勢が、珍しく早朝から出かけていることを知っても、怪しんだり勘ぐることなく玄関を出て行った。

いつものように見送る蓮が、自分の真後ろでほくそ笑んでいることにも気づかずに・・・。


               †


蓮は羽黒庵へは行かず、伊勢の帰りを待っている。

今日、この家に住人が増える。

バル・イグネウス。

今日、この日のために蓮は遠くギリシャから彼を呼び寄せた。

今日のこの日に全ての支度が整うように準備をして。

決して蓉には気づかれぬよう、細心の注意を払い計画を進めてきた。

幸いこの家は広く、諸事はほとんど執事の伊勢が行ってくれる。

今日から住人となるバルには蓉の隣りの部屋を用意したが、部屋が綺麗に模様替えされていることにすら蓉は気づいていない。

なぜなら伊勢は優秀な執事だからだ。

黒羽家の屋敷は広く、使われていない部屋も多々あるが、そのような場所の清掃もいっさい怠ってはいない。

部屋の内も、外も。

故に内装の変わったバルの部屋も、扉さえ開けなければ、外からは分からない。

「ククッ」

蓮は笑い声を上げた。

帰ってきたときの蓉を想像すると愉快な気持ちになったのである。

と、遠くで車の音がした。

蓮はゆっくりと立ち上がり、執事を迎えるために部屋を出た。


               †


「ただいま戻りました」

通用門から入ってきた伊勢が丁寧に告げた。

「彼には会えたようだね」

執事の手にしたスーツケースを見て蓮が笑いかける。

「はい。無事黒桜高校へお送りいたしました」

「ありがとう。手間をかけさせたね」

「いえ、私も楽しませていただきましたので」

そこまで言ってしまってから、伊勢は慌てて小さく咳払いをした。

「不謹慎でございました」

「いいじゃないか、伊勢も共犯なんだから」

ほんの少しだけ取り乱す伊勢を、蓮は面白そうに眺めた。

「共犯とはもったいないお言葉にございます」

伊勢はどこか嬉しそうに答える。

「この家もにぎやかになりましょう」

「伊勢には迷惑をかけることになってしまうけど」

「それこそが私の使命ですので」

「そう言ってもらえると助かるよ」

さて。とりあえずの用が済んだ蓮は踵を返した。

「僕は羽黒庵にいる、後はよろしくね」

「かしこまりました」

伊勢は穏やかに蓮へ一礼を返し、新しい部屋へスーツケースを運ぶため、屋敷の奥へと姿を消した。


               †


蓮が屋敷と羽黒庵をつなぐ廊下の入り口まできたところで、境界に備え付けられた柱時計が九つ鐘を鳴らした。


蓮は時計の文字盤を見上げて呟く。


「もうすぐかな」


感動の再会は。


To be continude.
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蓮の策略〜act.3〜

2009/07/21 17:05
          ―Intermission―

海を望む美しい島は、夕暮れの時。
水平線に日が重なると、辺りはゆっくりと薔薇色に染められてゆく。
真っ白な建物も、弧を描くように伸びる砂浜も、何もかも。

聞こえてくるのは波の打ち寄せる音と、穏やかな風がざわめかせる木々の音。


破壊音。


               †



バル・イグネウスは、遠く異国から寄せられた手紙を読んだ後、喜びのあまり机に拳を叩き付けた。

机を大破させ、石造りの床にまでひびが入るほどに。

彼はすぐに崩れ落ちた机の残骸からペンを拾い、引き出しであったろう辺りから、支給された便せんを取り出した。



     Sir Ren Kurobane.



そしてたった一言、返事を書いた。



      I accept.





To be continude.

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
words.
intermission 幕間(まくあい)
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蓮の策略〜act.2〜

2009/07/17 16:42
「行ってきまーす」
朝、蓉は玄関を出て行った。

「気をつけて」
「いってらっしゃいませ」

それをいつものように、蓮は執事の伊勢と見送った。

「・・・・・」

昭島高校へ通っていた時と全く変わらない。
黒桜高校へ転校させて5日。
まだ日が浅いせいだ。そう蓮は考えた。


それからさらに一週間の時が流れた。


梅雨も明けた金曜日、昼頃に蓉は帰宅した。

「あー、明日っから休みだー!!」

一学期の登校は、試験休み後の終業式1日を残すのみ。

「休み中のは部活動は?」

蓮は尋ねた。

「俺転校したばっかりだぜ?その上行ってすぐ期末試験」
そんなヒマねえよ。
「部活は9月になったらだなー」
蓉は自室へと入って行った。

若干意地悪く聞こえたのは気のせいか?


「・・・・・」


蓉が自分の力を自分で封じてしまったのは3年前。
もともと封じをほとんど行っていない蓉だ。その上、力の方向性は異なろうとも蓮の血を分けた弟である。己の強力な特異能力を完璧に封じることは出来なかった。
それでも普通に暮らしてゆくには十分なほどに蓉の力は弱まった。

かなり勘の鋭い一般人。
それが今の蓉だ。

蓮はため息を吐いた。

封師でありながら、モノも封じない。
退治屋に物に封じたモノを退治させることも嫌う。
無論、モノを厭わしく思っている。

そんな折、日本へと戻り、ふとしたことから蓉は蓮の道楽に足を踏み入れた。
蓉は退治屋と出会い、退治の結末を見届け、興味を持った。

綺麗だったとまで言っていたのに。

黒桜高校に退治屋は大勢いる。
高校の場所も特別な区域である。

蓉が影響を受けて封じを解くのは時間の問題だと思っていた。
いや、ほぼ確信していた・・・。


「強情だな」


蓮は久しぶりに不愉快な気持ちになった。
思えば蓉の答え方も不愉快だった。

封じは解かねえぜ。

そう言っているようなものだ。

蓮の思う通りにはいかないぜ。


そう、本人の気持ちを変えなければ不可能なのだ。

逆に考えれば、蓉が封じを解きたいと思えばいい。

蓉が自らの特異能力を解放しなければならない状況を作り出せれば・・・。


蓮の脳裏にふとさざ波がたった。


浮かんだのは赤い色。

炎のような激しい気性。
蓉の力の解放をおそらくは誰よりも願っている者の色。

あの時の結末は別れだったが。

今ならば、別の場所に存在する点をつなげる事もできるだろう。


蓮は羽黒庵へ行くのを止めた。
そして、手紙を書いた。

書き上がった手紙は伊勢へと託され、その日のうちに投函された。

宛先はエーゲ海を望むとある場所。

中央に綴られた名前は・・・


Bal Igneus.


バル・イグネウス。




To be continude.
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蓮の策略〜act.1〜

2009/07/16 00:01
食堂と名の付いた大広間。

長テーブルについて夕食をとる兄弟。

二人の間を、慣れた様子で給仕する上品な初老の執事。

いつもの黒羽家の風景である。


               †


「蓉」
食事を口に運びながら、兄の蓮が声をかけた。
「あ?」
蓉はぶっきらぼうに応える。
「新しい学校はどう?」
蓮の店にあった鬼灯の退治が片付いてすぐ、蓉は様々な事情から転校を余儀なくされた。
昭島高校から黒桜高校へ。
12月に帰国して入った学校から、6月には転校。
慌ただしいことこの上もなかったが、とうの蓉に別段不満はない。

「ん、ああ・・・普通」

しかし蓮への返事は抑揚をつけずに実にそっけなかった。
前の学校よりも遥かに楽しい、と本音は言えない。
今回の学校は普通じゃないからだ。
学校だけじゃない。そこへ通う人間も。

「いい退治屋には出会えたかい?」

蓉の考えを見越したように、蓮は聞いた。
蓉が避けようとしても、いつでも核心を掘り出してくるのが彼だった。
「あー、まあな」
なんとはなしに湧いてくる反抗心。
「でもよお、あのガッコ力使えねえんだってな」
前のトコと変わんねえかもよ。
「そんなことはないよ」
蓮はさして動じることなく言った。
「安心するといい」
「ちぇ」
このまま話していたところで言い負かされる。
ちょうど食事を終えた蓉は席を立った。
「ごちそーさま」
「蓉様、食後の紅茶はいかがなさいますか?」
紳士的な初老の執事は主の一人に尋ねた。
「あ、わりぃ伊勢、部屋に持ってきてくれよ」
「かしこまりました」
「試験だったっけ?」
蓮はまだゆっくりと食事を続けている。
「そおだよ」
蓉は蓮を軽く睨んだ。
「蓮がめんどくせえ時に転校させるから、お勉強が追いつかねえの!」
「仕方ないだろ。僕のせいじゃないよ」
勝手に関わってきたのは誰だい?と言わんばかりに蓮は目を細めた。
「大元は蓮だぜ!」
苦し紛れの一言を残して、蓉はそそくさと自分の部屋へ戻って行った。


くすくすと蓮が笑う。

「いかがなさいました?」

伊勢はもう一人の主に尋ねた。

「いや、もうすぐかなって思ってね」

「もうすぐ、と申しますと?」

「蓉が力の封じを解くのがさ」

「左様にございますね」

「見ていてごらん。きっと自分で解いてしまうよ」

そして、彼にしては珍しく、楽しげに笑った。



To be continude.
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Happily Ever After.

2009/03/15 17:26
朝日が目にしみる。

一晩明けて、僕は現実に戻った。

戻ってみればなんのことはない。
まるで夢から覚めただけのように、いつも通りの生活が待っていた。

でもなんだか頭がまだはっきりしなかったから、僕は公園へ散歩に出かけることにした。
夜にはあんなに幻想的に見えた風景も、朝日を受けるととたんに日常に戻ってしまう。

実に爽やかないつもの風景。

空は青い。

遅咲きの梅が咲いている。

春の色。

風になびく春色のレース。

春色の洋服。

ピンクのゴスロリ。


「・・・・・」


春色の、ゴスロリ。


僕はそれに見覚えがある。


着ているのは。


「ジンガミツキル」


「あ・・・」

プラチナ色の髪。
ルビーみたいな赤い目。
透けるように白い肌。


角。


僕の名前を呼んだのは『彼女』。


「きてあげたわ」


あんまり驚き過ぎて、僕は微妙にズレた応え方をした。

「何で、僕の名前を知ってるの?」

『彼女』はさして気にした風もなく答えてくれる。

「ミズキに聞いた」

「ミズキ?」

ミズキ。

僕の脳裏に浮かんだのは、神崎。

・・・・・神崎瑞希?

「そう、カンザキミズキ」

僕は神崎と話した時のことを思い出す。
別れ際、フラフラと踵を返した僕に神崎は思い出したように声をかけた。

―尽神はお返しするんでしょう?―

僕は答えた。
どうせ信じてはもらえないだろうと思って正直に。

―うん。魔族の女子にね・・・―

まさか神崎が『彼女』と知り合いだったとは。
どうりで魔族がいると神崎は言い切ったわけだ。

ぼんやりと考えていると、『彼女』は首を少し傾けてふいに聞いた。

「泣いてたの?」

口もとには不敵な笑みが浮かんでいる。

「目が赤いワ」

「泣いてないよ」

ふてくされたように僕は答えた。

(眠れなかっただけだよ)

『彼女』はそんな僕を目を細めて疑ったように検分する。
内心どきどきしているのがバレないように、僕はいっそう横を向いた。

「まあいいワ」

一つため息をついて、『彼女』は腕を組む。

『彼女』の雰囲気が唐突に変わる。
魔族の威厳ある空気とでもいおうか、何か要求を突きつけられそうな感じだ。

「アナタの作った服、気に入ったワ」

「?」

僕は『彼女』が何を言いたいのかよく分からなかった。

「また、頼みにくる」

『彼女』は続けてそう言った。

僕は理解する。


それは、これからも会えるということ。


とてもうれしかったけど、素直に受けるのは少し悔しかったから、

「僕は君の名前も知らないよ」

そう答えた。

「名前も知らない子の依頼は受けられないよ」

僕の答えを聞いた『彼女』はさも楽しげに、極上の微笑みで応えてくれた。


「ルキ」


               †


あの後、すぐにルキは帰ってしまった。
けれど3日後、本当に洋服を注文しに僕の家までやってきてくれた。
大量の生地やら糸やら飾りを用意して。

その日、僕はルキのお針子さんになった。


               †


「無理だろオオオオオオオオ!!」

今日も僕は忙しく働いている。
非日常が、再び僕のもとに戻ってきた。

「10日で10着は無理だろオオオオオオ!!!」

猛スピードで作業を進める僕。
尽神一号機もフル回転だ。

いつか神崎の言っていた言葉が蘇る。

『粗暴で、残酷で、冷酷でワガママ。ものによっては危ない。』

ワガママ。

思えば神崎はルキのことを言っていたのか。

「ほんと、ワガママだよな」

苦笑まじりにため息を吐きながら、僕は窓の外の明るい空に思いを馳せる。
本当にあるらしい非現実的世界。
ルキの住む、神崎もどうやら関わっている世界。

まあ、僕の生活は別段変わらないんだけど。


こうして2月14日に始まった物語は、僕が考えていたのとは全く違う結末を迎えた。


(いや、結末じゃないか)


はじまり。


新たなはじまりだ。


普通の高校生で僕(しもべ)でお針子で・・・。



Happily Ever After.



最高の結末。



†Fin.†
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尽神日記

2009/03/15 00:00
3月15日、深夜。

「読むなああああああああ!!!」

尽神月流は真夜中の自室で激しく悶え苦しんでいた。

なぜか。

WHY?

ANSWER.

日記を読み返したのである。

(日記は自分しか読まないけど!!)

恥ずかしい!
恥ずかしすぎる!!

取り消したい!
いますぐ取り消したい!!

非現実を忘れるために、現実を再び見据えようと、尽神月流は前の日記を読み返した。

今まであったことは全て夢物語。
全てを無に帰すため、
昨日のあっけない結末を自分に思い知らせるため、

ページを開いた。

効果は予想以上だった。

自分は予想以上に思い詰め、なんだか別世界の住人と化していた。

まるで主人公だ。
主役だ!!
ヒーローだ!!!

今となっては思い込みの激しい男子でしかないのに!!

「くッ・・・」

しかし取り消すことはできない。

なぜなら。

BECAUSE,

十年日記だから。

しかも中学入学と同時に始めたので、もう5年も書いてしまっている!

(しかもペンだ!!)

消しゴムで消すことすらできない!
それに破くなんてもったいなくてできない!!
何せ5年も書き込んだのだから!!!

(負けない!)

「僕は負けない!!!」

非現実から現実に。
夢から現に戻る。

尽神月流は昨日までの自分にピリオドを打つため、そして3月14日の日記を終わらせるべく、力強く書き込んだ。


『尽神月流の冒険は、まだ終わらない。』
『尽神月流の戦いはこれからだ!』


と。



こうして、尽神月流14日間の戦いは、終結したのであった。


†The End.†
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bad day.

2009/03/14 21:42
今日も、僕は日記を書いている。

いつものように家に戻り、

いつものようにこうして机の前に座って。

いつも通り・・・。



朝からの雨が上がり、『彼女』へのお返しを持って外へ飛び出した僕は公園へと急いだ。

水気を含んだ夜の空気をかき分けるように、僕はいつの間にか必死に走っていた。

公園にたどり着くと、待っていたかのように厚くたれ込めた黒い軍艦のような雲が晴れ、

あの日と同じように『彼女』は現れた。

あの日と同じ、月を背に。


最後の審判を待つ僕は、緊張しながらお返しを『彼女』に差し出した。


『彼女』は、それを満足げに受け取り・・・


そして。


―アリガト―


ひとこと残し、あの日と同じく帰ってしまった。



一人残された僕。

あまりにもあっけない結末。


最後の審判は無罪放免。


いや、そもそも最後の審判なんて『彼女』は最初から考えてなどいなかったのだ。

僕だけが、勘違いをしていたに過ぎなかった。

一人で勝手に思い込んで、一人で勝手に悩んで、一人で勝手に期待していた。

魔界に、連れて行ってもらえるんじゃないかって。


滑稽だ。


僕は一体何を望んでいたのだろう。
『彼女』はただ人間のまねをして、行事を楽しみたかっただけだったのに。

僕は、結局『彼女』の名前すら聞けなかった。

知る必要はないのかもしれないけど。

『彼女』にとって僕は、ちょうど居合わせただけの人間だったんだろうから。

もし聞いたら、『彼女』は教えてくれたんだろうか。

けれど。

・・・それすらも。


僕にはもう、知る術が無い。


もう、会うこともない・・・。


もう二度と、会うこともない『彼女』を思って僕は・・・



泣いた。




3月14日、雨のち一瞬の晴れ間・・・そして、涙の痕。
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尽神日記

2009/03/13 23:30
3月13日、曇りのち晴れ間、そして雨。

今日が最後の日記になるかもしれない。

僕が最後にしたこと。
部屋の掃除。

ずっと暮らしてきたこの部屋を、明日僕は出て行くのだ。

明日は、いよいよ最後の審判が下される日。

もう戻ってくることはできないかもしれない。

だからこそ、いつも通り、綺麗にしておきたかった。

結局僕は、いつもと変わらない一日を送ったことになる。

こんなものかもしれない。

あまりに非現実的な現実に直面すると、かえって何かをする気がなくなる。
いつもの、いつもと変わりない日々が大切なのだと気がつかされる。

午前中のうちに用を済ませ、午後はおばあさまとゆっくり話した。

僕は明日起こることをおばあさまには言えなかった。
だから、夜出かけることだけを伝えた。
けれど部屋を去り際、おばあさまは僕に言った。

『いっておいで』

と。

おばあさまは勘が鋭い。
僕が何も言わなくても、全て分かっているようだった。

だから僕も答えた。

『いってきます』

普通に出かけるみたいに、いつも通り。

これでいいのだろう。

不思議なほど、僕は納得した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

部屋には明日に備えて作り上げた服と、特注のマシュマロの入った箱。

花束は14日当日に用意してもらえることになっている。

明日を迎える準備はできた。

明日、『彼女』がやって来る。

僕の前に。

最後の審判を下しに。

明日、『彼女』に、会う。

「明日、『彼女』に・・・」



会える。


†To be continued.†
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尽神日記

2009/03/12 17:24
3月12日、晴れ。

今日、『彼女』へのお返しができあがった。

無事に仕上がって良かったと思う。

気がつけばホワイトデーまであと2日。

思い返せば、いろいろなことがあった。

尽神一号機との再会。
天啓を得た計画。
神崎との出会い。
尽神一号機とともに戦った日々。
神崎との別れ・・・。

残された課題・・・・・。

それはこの際考えないようにしている。
僕にはどうしようもないことだ。
というよりも、考えれば考えるほど・・・

いや、止めておこう。
ここで止めておこう!!

尽神月流最後の戦いは、もうそこまで来ているのだから。

最終決戦。

14日。

明日は

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「明日は・・・」

何をしようかな。

尽神月流は呟いた。

言ってみれば明日は最後の晩餐かもしれないのだ。
14日はゆったりすることなど、できそうにないし。

とりあえずケーキ屋さんに頼んだマシュマロは取りにいかなければならないだろう。
花屋にも行かなければ。
14日にいきなり行って、無いと困る。

ユリの花。

綺麗で鮮やかなピンク色がいい。

昔どこかで読んだ花言葉。
たった一つだけ憶えている。

高貴。

『彼女』にふさわしいと、尽神月流は思う。

明日は一番綺麗なユリを探しにいこう。

そこで尽神月流ははたと我に返る。

(ああ・・・・・)



また『彼女』のことばかり考えていた。


†To be continued.†
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尽神日記

2009/03/11 21:14
3月11日、晴れ。

今日、4日ぶりに外へ出た。
近所のケーキ屋さんに予約制のマシュマロを頼みにいくためだ。
予約は無事に済み、13日の金曜日に受け取れることになった。

13日の金曜日か・・・。

少し前の僕ならここで確実に叫んでいただろう。
だが、本物の魔族と出会ってしまった今の僕には、そんな不吉をにおわせる日にちくらいじゃびくともしない。

僕が最後の審判を受けるのは14日。
土曜日だ。

あとは待つだけ。

魔族が・・・、『彼女』がやってくるのを。

恐怖・・・そんな感情はおとついで超越してしまった。
もう僕が恐怖に叫ぶことはない。

明鏡止水の心。

まさにそんな感じだ。

そういえば、そのケーキ屋で神崎に会った。
僕と同じくお返しを選びにきたそうだ。
この店のマカロンを選ぶとはなかなかだ。しかも量がハンパなかった。
僕の何倍だ!?
神崎は女子なのに!!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「フッ」
尽神月流はなぜか不敵に笑った。

やはりちょっと前の僕だったらここで叫んでいたはずだ。

そう思ったからである。

いかに魔族とはいえあれほどの美少女に大きなハートチョコをもらった今となっては、特にうらやんだり妬んだりする気持ちはない。

明鏡止水。

僕の心はどんなことにも揺るがない。

まるで止まった水のように。

鏡のように。

・・・・・。

(あれ?)

一息吐いた尽神月流は、ふと自分がどうやってケーキ屋から帰ってきたのか分からないことに気がついた。

心の湖に若干の波紋。

「神崎・・・、そういえば神崎と話したんだっけ・・・」

何を?

そして尽神月流は突然思い出す。


あの後。
ケーキ屋を出た後のことである。

神崎と会うのもひょっとしたらこれが最後だと思った尽神月流は、彼女に自分がこの世界からいなくなるかもしれないと伝えようと思った。

まさか魔族が自分の魂を狙っているなどとは言えないので、軽い調子で会話をした。

(そうだ・・・それで)

彼女が魔族をどう思っているのか何となく知りたくなった。
神崎は勇敢な人だ。
しかしさすがに魔族を見たことはないだろう。

そう思ったから。

だから、聞いた。

―神崎はさ、魔族なんて世の中にいると思う?―

神崎は実に簡潔に答えた。

―思う―

尽神月流にはそれが意外だった。
そんな空想といわれる存在を、彼女も信じているのかと。

(まあ、本当にいるんだけど・・・)

ちょっとした優越感が尽神月流を包む。
実像とどれくらいの開きがあるのか興味がわいた。

ゆえに、聞いた。

―魔族って、どんなだろうね―

と。

神崎はやはり率直に答えた。

―粗暴で、残酷で、冷酷でワガママで、ものによっては危ないわね―

そう。

―・・・・・―

僕は忘れていた。

『彼女』は確かに美少女だ。

けれど。

『他』

神崎の言う通り、ものによってはどうなんだ?

粗暴で残酷で冷酷で・・・・・危ない。

危険。

凶暴。

襲い来る魔族。

普通人(ふつうじん)な僕。


・・・・・。


僕は・・・・・


「どうなるんだアアアアアアアアアアア!!!!!?」


尽神月流は怒濤のように襲ってくる恐怖に耐えかねて、叫んだ。


†To be continued.†

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
words.
普通人(ふつうじん)尽神月流の造語。
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尽神日記

2009/03/10 17:08
3月10日、晴れのち曇り。

カレンダーの数字がとうとう二ケタになった。
あと4日もすれば運命の日がやってくる。

僕は、最後の審判を受ける。

なんだか実感がわかない。

人は天に召されて後、審判を受けるのだとずっと思っていた。
審判を下すのははもちろん神様だ。

まさか生きているうちに、しかも魔族の美少女に、最後の審判を受けるなんて誰が予想しただろう。

そう、僕は生きている。

ゆえに考える。

現在と、未来を。

『彼女』が僕のお返しをお返しとして認めた場合、僕はこのまま普通の高校生として暮らすことができる。
けれど、『彼女』の望むお返しがはなから物じゃなかった場合、僕はきっと魔界行き。魔界で先も知れない暮らしをすることになるんだろう。

僕の思考は行ったり来たりを繰り返す。
考えたって、どうしようもないことばかりなのに・・・。

でも、考えてしまう。

非現実的だと思っていたことが、現実として僕に降りかかっているから。


現実と、非現実。


たとえ相手が魔族だとしても、普通のホワイトデーと考えていることだってある。

僕は、無事に済むことを切に望んでいる。

けれど望みながら、なぜか、『後者』に思いを馳せている。


もし、魔界へ行くことになったなら。


もしも連れて行かれたら、僕はどうなってしまうんだろう。


僕は僕のままでいられるんだろうか。


『彼女』の僕(しもべ)になるんだろうか。


『彼女』の側で?


僕は


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

尽神月流は器用な手つきで装飾を縫い付けている。

時計は夜中の12時を回った。

あまり遅くまで起きているとおばあさまが心配するので、テーブルランプで作業している。
尽神一号機での作業は大方終わり、残るは細かな手作業だけだ。

白熱灯の暖かな光が赤いハートの飾りを照らす。

キラキラと輝く綺麗なハート。

それを見る尽神月流の表情はいつになく穏やかだった。

もうすぐ出来上がる。

『彼女』は、喜んでくれるだろうか。

「今日はここまでにしておくかな」


いつものように布地を行李におさめる。


『彼女』の望みがこれじゃなくても・・・


たとえ魔界に連れて行かれたとしても、


僕は・・・・・


†To be continued.†
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尽神日記

2009/03/09 16:41
3月9日、曇り。

今日も作業が忙しかった。
こうして日記を書いているが、余裕があるわけじゃない。
あまり根を詰めすぎると精神が参ってしまうので、あえてものを書くという行動をとっているに過ぎないのだ。

書いて、気を鎮め、また新たに作業の意欲を燃やす。
これが僕のやり方だ。

その日あったことや、夢、いろんなことを書く。

今までにあった出来事やそれに対する考察・・・。


例えば僕は振り返る。

あの日・・・。

聖バレンタインデーの夜。

月がやけに明るかったっけ。

あの夜。
僕は小腹が空いた。
はじめにおばあさまからいただいた甘い大福を食べた。
空きっ腹に甘いものは心地よかったが、続いて無性に塩分を欲した。
甘いものの後に塩分。

我慢する事は不可能だった。

だから、コンビニエンスストアに行ったんだ。
大好きなうす塩味のポテトチップスがちょうど切れていたから・・・。

おばあさまが夜道はいろいろ出てきて危ないから明日にしなさい、と忠告してくれたのに、僕は・・・

―大丈夫ですよおばあさま!今は現代、科学の時代ですよ!!心配ありません!!!―

こう答えて玄関を出て行った。

お年寄りの言う事は聞いとくものだ。

いつか誰かに聞いた言葉が蘇る。

今となってはもう遅い。

結果、僕は『彼女』という魔族女子に出会い、チョコレートをもらい、あげくの果てにそのチョコを食し、回避できたかもしれない『契約』を完全に成立させてしまったのだから。

お返し。

取り返しのつかない軽率な行動をとった僕。

悔やんでも悔やみきれない。

チョコと引き換えに、僕は・・・・・・


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「自分の魂を売り渡したんだアアアアアアアアアアア!!!!」

書くんじゃなかった!
思い出すんじゃなかった!!

こうして日記に記し、振り返る事で忘れていた恐怖が蘇る。

作業をし続けていればランナーズハイみたいな具合になれて、なにもかも忘れていられたのに!!

「書く事によって現実と向かい合ってしまったアアアアアアアアア!!!」



こうして、尽神月流は激しい後悔に押しつぶされるのだった。


†To be continued.†
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尽神日記

2009/03/08 16:51
3月8日、曇り。

夢を見た。

『彼女』の出てくる夢だ。

あの夜と同じ。

金色の月を背に、『彼女』は僕の前に立っている。

プラチナ色の髪。
赤いルビーみたいな瞳。
透けるように白い肌。

角。

『彼女』は僕に言う。


―お返しを、受け取りにきたワ―


僕は緊張しながら、『彼女』への贈り物をそっと差し出し・・・・


―あれ?ない。ウソ?ない!!―


あんなに一生懸命作ったのに!!

焦って取り乱す僕。
冷たく見つめる『彼女』。


―期待して待っていてソンした―


僕の背筋に冷たいものが走る。
顔を上げると、意外にも『彼女』は無邪気に笑っていた。
続いて、どこかの王妃様のように言い放つ。


―お返しがないなら、魂を差し出せばいいじゃない?―


(逃げよう)

僕は後ずさった。

瞬間、『彼女』の目が赤く光る。


―どこ行くの?―


それをもろに見てしまった僕は、金縛りにあったように身動きができなくなった。

『彼女』が近づいてくる。
僕は動けない。


―最後の審判よ―


目を三日月のように細めて、『彼女』は凄惨な笑みを浮かべた。


―お前の魂を―


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「いやだああああああああ!!!!!」

日記を付けていた尽神月流は夢の続きを思い出して、恐ろしさのあまり叫び声を上げた。

昨日は悦に入って「恐怖はない」なんて言ってたが、怖いものはやっぱり怖い!
あと6日。
あと6日で『彼女』が町にやってくる!
あと6日経てば、夢の続きが再現される!!

恐ろしい。
恐ろしすぎる。

逃げたい。

しかし相手は魔族だ。

この地球上のどこに逃げたって、追いかけてくるに決まっている!

堂々巡りする思考。
そうして辿り着く結論。

「作るしかない」

そう、作るしかないのだ。
それ以外の方法はない。

思いつかない。
時間もない。

夢の通りにならないように、しっかり作ってきっちり渡す。

夢は夢。
現実ではない。
『彼女』が僕の魂を取っていくという確証はないのだ!
未来は自分の手で切り開ける!!

「そうだ!自分の手で切り開くんだ!!夢に踊らされてはいけない!!!」

尽神月流は立ち上がり、さっそうと階下のおばあさまの部屋へ向かった。

ずっと前、おばあさまに言われたことを思い出したからである。


『月流や、悪夢を見たらね、人に話してしまうといいんだよ』


『そうすると、正夢にならないからね』



†To be continued.†
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